先日、人生初の「カットモデル」を経験しました。
若手の美容師さんが担当し、その後、ベテランの美容師さんが最終調整を行うという流れです。
私の髪はどうやら毛量が多いらしく(どの美容室でも言われます)、練習台としてはちょっと大変なんじゃないかな……と思いつつ、カットを受けました。
でも若手美容師さんが手際よく仕上げてくれて、「あら、いいんじゃない?」と満足していたんです。
その後、ベテラン美容師さんがチェックに入り、「こういう毛量の多い人はね…」と、さらにカットを加えました。
とはいえ仕上がりの見た目はそれほど大きく変わったようには見えません。
ところが。「触ってみてください」と言われて手を当ててみると——あれ?違う……。
ボリュームの出方、毛流れの自然さ、耳まわりの収まり。
見た目では伝わらない「手ざわり」や「なじみ感」に、確かな違いがありました。
技術と経験の積み重ねが、こういう部分に現れるのだと実感した瞬間でした。

この体験は、私が日々取り組んでいる印刷物のデザインにも通じるものがあると感じました。
たとえば、生成AIなどのツールを使えば、短時間で見た目に美しいデザインがつくれます。確かに便利で、ある程度の成果を得るには十分な時代になっています。
けれど、紙面の読みやすさや情報の伝わりやすさ、ユニバーサルデザインとしての配慮といった「目に見えにくい差異」は、手間や経験の中に宿ります。視覚障害のある方が触れる切り欠き位置の配慮、音声コードの配置位置、文字組の行間や字間、色のコントラストや書体の選定──それらは見た目だけでは測れない、けれど確実に「使いやすさ」「伝わりやすさ」に影響する要素です。
AIやテンプレートは、今やデザインの現場にも欠かせない存在です。
しかし「この紙面はどんな人がどこで手に取り、どんな状態で読むだろう?」と考えるプロセスは、今もデザイナーの役割だと思います。
カットモデルの仕上がりに差があったように、同じように見えるデザインにも、手で触れて使って初めてわかる違いがある。これからも私は、表面だけで判断せず「中身に宿る精度」にこだわるデザインを目指していきたいと思います。